年金制度改革特集第3弾!遺族年金制度の改正と影響
2025年6月13日に成立した「年金制度改正法」では、社会保険の加入対象拡大、私的年金制度の見直しなど主に5つの項目で改正が行われました。
今号では、男女差の解消、有期給付加算と年金記録分割制度の新設等が実施された「遺族年金制度」の見直しについて確認します。
社会経済状況の変化
独立行政法人労働政策研究・研修機構「2024年3月労働力需給の推計」及び総務省「労働力調査」によると、2040年の女性の就業率は、20歳から59歳までのいずれの世代も80%台後半と見込まれ、2023年の男性の就業率に匹敵する状況であると考えられています。
また厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」では、2023年の男女の賃金格差は40歳未満であれば概ね80%の範囲内に収まっていることが報告されています。
2002年と比較した場合、賃金格差の改善度は、30歳から64歳までの年代において比較的高くなっており、今後も中高齢期における賃金格差の縮小が見込まれています。
内閣府の「男女共同参画白書 令和6年版」においては、平成に入ると共働き世帯が専業主婦世帯を上回り、近年はその差が拡大傾向にあると指摘されています。
今回の改正では、年金制度の創成期から長期間が経過するなかで、女性の就業の進展や共働き世帯の増加など社会経済状況の変化に伴い、制度上の男女差などを解消する観点から、現行制度に対する配慮措置と合わせて大幅に見直されました。
現行制度における問題点1
遺族厚生年金は、妻に対して30歳未満の場合は有期給付、30歳以上の場合には期限の定めのない終身給付が行われます。
さらに、夫と死別した女性は就労が困難であるとの考え方から、受給権取得当時に40歳以上65歳未満の中高齢の寡婦を対象とした「中高齢寡婦加算」が、65歳に達するまでの間加算されます。
国民年金においては、遺された妻が国民年金の被保険者期間が終了する60歳から老齢基礎年金の受給開始年齢である65歳までの5年間を保障するため、「寡婦年金」が設けられています。
また、夫は就労して生計を立てることが可能であるとの考えのもと、55歳未満の夫には遺族厚生年金の受給権が発生しません。
その背景には、主たる生計維持者を夫とし、夫が働き妻を扶養する片働き世帯が中心であった社会経済情勢があり、現行制度は性別による固定的役割分担を念頭に置いた設計となっていることがわかります。
一方、子のある配偶者には、子が18歳到達年度末(障害年金の障害等級1級または2級の状態にある場合は20歳)までの期間、遺族基礎年金および遺族厚生年金が支給されています。
養育する子がいる世帯において男女差は存在しません。
現行制度においては、特に20代から50代に死別した子のない配偶者の遺族厚生年金に対して制度上の男女差が存在し、子のない男性に給付が行われないケースがあることが課題となっていました。
遺族厚生年金制度の改正
見直し後の仕組みは、前提として男女共通とし、子(18歳到達年度末までにある子、または20歳未満で障害年金の障害等級1級もしくは2級の状態にある子。以下同)のない配偶者については、60歳未満で死別した場合は、原則5年間の有期給付となります。
有期給付の額は、「有期給付加算」が新たに支給され、現在の遺族厚生年金の額の約1.3倍となります。
さらに、遺族年金の生計維持要件である年収850万円未満の収入要件は廃止され、2028年4月以降の新規受給者については、中高齢寡婦加算および寡婦年金を段階的に引き下げ、25年かけて廃止する予定です。
また高齢期の年金受給額の改善を図ることを目的として、配偶者の死亡に伴う年金記録を分割する制度を導入することにより、さらに給付を充実させる方針です。
5年間の有期給付終了後、障害年金の受給権者や低所得者については、継続給付として引き続き増額された遺族厚生年金を受給することができます。
単身者は、就労収入が月額約10万円以下の場合、継続給付が全額支給されます。
収入が増加するにつれて収入と年金の合計額が緩やかに増加するように、年金額が調整されるという仕組みです。
遺族厚生年金の見直しは、男性は2028年4月から実施され、女性は2028年4月から20年かけて段階的に移行されます。
すでに遺族厚生年金を受給している人、60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する人、養育する子がいる世帯の給付内容、2028年度に40歳以上になる女性には、今回の見直しによる影響はありません。
現行制度における問題点2
遺族基礎年金は、子を抱える配偶者や、自ら生計を維持することができない子に対して、生活の安定を図ることを目的とする給付です。
遺族基礎年金の支給対象者は、子のある配偶者またはその子であり、2014年4月から子のある男性も対象となったことで、男女差は解消しています。
しかし、離婚の増加など子を取り巻く家庭環境の変化に伴い、子が自らの選択によらない事情で遺族基礎年金の支給が停止される不均衡が課題となっていました。
遺族基礎年金制度の改正
現行制度では、生前すでに両親が離婚しており、子の生計を維持していた被保険者の死亡後に元配偶者が子を引き取った場合や、被保険者の死亡以降、配偶者が子の生計を維持し、死別後に再婚した場合、配偶者の遺族基礎年金は失権し、子も配偶者も年金を受け取ることができません。
さらに、子の生計を維持している配偶者の収入が850万円以上の場合や、子が祖父母など直系血族または直系姻族の養子となった場合は、いずれも受給権は発生しないことから遺族基礎年金を受けることはできず、子に対しても支給停止となります。
今回の改正では、遺族基礎年金の支給規程を見直すことにより、2028年4月以降は、受給権を有さない父または母と生計を同じくする子に対して、すべてのケースで遺族基礎年金が支給されることになります。
遺族年金制度については、子を養育する年金受給者に対する加算額の引き上げや対象範囲の拡大など、今後も見直しが予定されているため、引き続き注視していきましょう。









