介護休業等の周知・意向確認と早期情報提供が義務化 介護休業・両立支援に関する法改正の要点
2024年5月に育児・介護休業法が改正され、2025年4月1日より段階的に施行されています。
今回の改正は、仕事と育児・介護の両立支援の強化を目的としており、企業は実務対応が必要となります。
ここでは、4月1日に施行された介護休業・両立支援に関する改正ポイントを確認します。
介護離職者の現状
介護を理由とする離職者数は、2005年4月の法改正で介護休業などの取得対象者の拡大が図られてから、2007年をピークに減少し、その後横ばいで推移してきました。
しかし、2017年に増加に転じ、以降、毎年10万人前後で推移。
2022年においては、離職者数は約10万6000人に上り、特に50歳以上の年齢層で離職率が高くなっています(総務省「令和4年就業構造基本調査」)。
高齢者人口の増加に伴い、今後も要支援・要介護者の増加が見込まれることから、さらなる離職者の増加が懸念されています。
また、「仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(厚生労働省委託調査、三菱UFJリサーチ&コンサルティング)によると、介護離職をした理由は、「両立しやすい働き方ができなかったから」が31.2%で最も高く、「勤務先に両立支援制度が整備されていなかったから、あるいは整備されているか不明だったから」を合わせると、54.7%となっています。
こうした現状を受け、厚生労働省では介護休業制度などの周知徹底を図り、介護を行う労働者の継続就業を促進するため、介護に関する申し出がしやすい職場環境の整備に取り組むとしています。
5つの改正ポイント
改正育児・介護休業法の介護休業に関しては5つのポイントがあります。
1つ目は、介護に直面した労働者への個別周知・意向確認です。
介護に直面したことを申し出た労働者に対して、事業主は、介護休業制度と介護両立支援制度など(以下、制度)について周知し、制度利用の意向を個別に確認しなければなりません。
周知事項としては、1.制度の具体的な内容(介護休業・介護休暇・所定労働時間の制限・時間外労働の制限・深夜業の制限・介護のための所定労働時間の短縮等の措置)、2.制度を利用する際の申し出先、3.介護休業給付金に関すること、の3点です。
個別周知・意向確認の方法については、オンラインを含む面談あるいは書面交付、また、労働者が希望した場合はFAXや電子メールなども可能となっています。
2つ目は、介護に直面する前の早い段階における労働者への情報提供です。
制度を十分に活用できないまま介護離職に至ることを防止するため、事業主は、40歳など早い段階で、制度に関する情報提供を行う必要があります。
情報提供期間は、労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度、もしくは40歳に達した日の翌日(誕生日)から1年間です。
情報提供事項とその方法については、個別周知・意向確認に必要な事項、方法と同様です。
さらに、情報提供においては、介護保険制度についても周知することが望ましいとされています。
3つ目は、制度を利用しやすい職場環境の整備です。
事業主は、制度の申し出が円滑に行われるように、1.研修の実施、2.相談窓口の設置、3.制度利用に関する事例の収集・提供、4.利用促進に関する方針の周知のいずれかの措置を講じる必要があります。
以上の3つの改正ポイントは、事業主に対する義務となっています。
4つ目は、介護休暇を取得できる労働者の要件緩和です。
労使協定による継続雇用期間6カ月未満除外規定が廃止となり、労使協定により除外できる労働者の要件は、「週の所定労働日数が2日以下」のみに変更となります。
5つ目は、介護のためのテレワークの導入です。家族の介護を必要とする労働者で、介護休業をしていない者に対して、テレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主の努力義務となっています。
改正事項に対する実務対応
育児・介護休業法は、企業の規模や業種を問わず適用されるため、すべての企業において実務対応が求められます。
原則として、介護休業・介護休暇をはじめ、ハラスメントの防止、賃金の取扱いなどに関して、就業規則等によりルールを定めておかなければなりません。
育児・介護休業等に関する労使協定を締結している場合も、法改正に伴い、就業規則を含めて見直す必要があるので留意してください。
介護休業申出書や、介護休業取扱通知書は、あらかじめ社内様式を定めて、就業規則等とともに周知しておくことが重要です。
個別周知・意向確認や早期の情報提供に関して、書面にて対応する場合は、厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例(令和7年4月1日、10月1日施行対応版)」に参考様式が記載されています。
併せて確認しておきましょう。
助成金の活用
両立支援等助成金は、働きながら育児や介護を行う労働者に対し、雇用継続を目的として、職場環境の整備に取り組む事業主を支援するための助成金制度です。
仕事と介護の両立支援においては、「介護離職防止支援コース」があり、対象は中小企業事業主のみとなっています。
要件として、まず介護支援プランを作成する必要があります。
介護支援プランとは、労働者の介護休業の取得や職場復帰を円滑にするために事業主が作成するプランです。
プラン作成の際には、厚生労働省のホームページ記載の「介護支援プラン」策定マニュアルを参考にすることができます。
本マニュアルには、介護に直面した労働者に対し、介護休業の取得など制度の利用方法や働き方の調整など、個々のニーズに沿った支援のポイントが解説されています。
そのプランに基づいて介護休業の取得促進に取り組み、介護のための柔軟な就労形態の制度(介護両立支援制度/図参照)を導入することで、利用者が生じた場合に活用することができます。
支援等事業の活用
介護離職防止の観点から、事業主・労働者支援として、労務管理の専門家による仕事と家庭の両立支援プランナーが、個々の状況や課題に応じた支援を実施し、制度などの活用による両立支援を行っています。
また、介護に直面していない労働者を含めた支援としては、「介護休業制度特設サイト」の開設やインターネット広告などの展開、リーフレットの配布を実施することによって、制度の周知拡大に努めています。
企業による適切な情報提供のもと、労働者が正しい知識を持ち、労使一丸となって両立可能な職場環境を構築することにより、介護離職のない明るい職場を目指しましょう。
